MBA中、あるいはその後に読んでよかった本たち

僕のように純粋国産培養の人間がMBAに行くと、読まねばならない英文の量に圧倒されることが多いはずだ。毎日のケースに参考文献。来週までに本一冊読むの!?!?!?、といった参考文献の指定のされ方もあって、度肝を抜かれたのを覚えている。しばらくすると大量の英文を速読することに慣れるとともに、力の抜き方も覚えてくるのだが(この参考文献は読まなくてよさそうだな。。等)、とにかく最初の数か月くらいは常時睡眠不足だった。

MBAに来るまでの長い間、僕は本を読むのがそんなに好きではなかった。重度のドラマ(含む海外ドラマ)オタクだった僕は、暇さえあればDVDを借りてドラマを見ていた(当時は動画配信などない)。また運の悪い(?)ことに、僕はニコニコ動画や黎明期のYouTubeが直撃した世代でもあり、本を買って読むなどという発想は終ぞなかったのである。有難いことに、MBAの初期に半ば強制的に大量の本を読んだことにより、本を読む、という習慣がついたように思う。以降、YouTubeの時間が多少減り、本を読む時間が人生において増えることになった。これもMBAに行ってよかったことの一つかもしれない。

良質のビジネス書を読むことのメリットは、著者の長年の研究の結果が、一冊の本に凝縮されていることである。一流の研究者が数年、長い場合は数十年かけて得られた洞察を数十ドルで買えるのはありがたい話だと思う。ビジネス書は比較的容易な文章で書かれているため、英文を読む練習にもなるかと思い、参考までにMBAの時に読んだものを中心に、自分の中でのお勧めビジネス書トップ5を挙げてみたい。尚、僕の現在の職務で役に立っているもの、という点でのバイアスが若干かかっているであろう点、ご了承願いたい。

1. Built to Last
日本語だとビジョナリーカンパニーという題名で、僕がMBA前に勤めていた会社の上司にもファンが多かった一冊である。天邪鬼な僕は、当然読まなかった。結構偉い上司から三回くらい勧められたので、インターネットであらすじを調べて読んだふりをした。本当にダメな若手で申し訳ない。
内容としては、尊敬され長い間経営陣の交代があったにも関わらず業界のトップにある会社群を調べ、その通底する特徴は何か、という点を解き明かしている。物凄い雑にまとめると、会社のCoreになるカルチャーを醸成し企業そのものを製品やサービスそのものだと考えること、従業員に対してそのカルチャーに対しての忠誠心を高めること、それから大胆な目標を掲げて進化を促進すること、といったところか。とても素晴らしい本で、アメリカの経営者にもファンが多い。起業を考えている人には勿論、就職活動という意味でエクセレントカンパニーを選びたい人にもお勧めの一冊である。

2. The Lean Startup
2011年に発行され、瞬く間にスタートアップ及びプロダクトマネージャーのバイブルとなった本である。いまのアメリカテクノロジー企業の製品開発のサイクルは、原理的にはこの本の内容に依拠していることが殆どだと思う。
それまでの時間をかけて完成した製品を出す、という点に重点がおかれていた製品開発のサイクルを否定し、顧客に提供できる価値を突き詰めていった上で、スケールしていった時のリスクの大きい仮説を検証できるようなMVPを定義し、学習のためのマーケットに出してしまう、という方式を提案している。これは実際にプロダクトマネージャーをやっていると日々感じることで、例えばアンケートの結果をとったとしても、本当に使ってくれるかなどは分からないことが多い。実際の商品を目の前にしない段階でのアンケートは、顧客が想像で余白を埋めているからである。従って、実際に最低限重要な価値を提供できる製品を作ってしまい、顧客が実際にそれを使うか否か、という点を検証する、というのは非常に理にかなった手法だ。起業を考える人、そしてアジャイルな開発環境に身を置くであろう人は必読であろう。

3. The Innovator's Dilemma
おそらく2000年以降にMBAに進学した人で知らない人はいないのではないか、と思われるHBSのクリステンセン教授の著作。教授は今年の初頭に惜しくも亡くなられたが、この本が色あせることはないだろう。
過去に起きた、DisruptiveなInnovationを研究し、それらに通底するテーマを探る。大企業として成長すると、成熟した既存顧客の話ばかり聞くようになり、既存の商品の延長線上にある製品ばかりを出すようになる。一方で、新興の会社はこういったしがらみがないので、低価格で特徴的な新機能をもった製品を開発し、それでもって、大企業が無視しているような小さなセグメントに侵入していく。結果として、手ごろで斬新な機能をもっているその製品が、大企業にも受け入れられはじめ、マーケットシェアを大きく奪うことになる、という話である。昨今、顧客の声を聞く、ということが叫ばれているが、自分が聞きたい声ばかり聞いていないか、という点で、非常に考えさえられる。スティーブジョブズが好きな、自動車王のフォードの言葉だが、「もし人々に何が欲しいかと尋ねたら、早い馬が欲しいと答えただろう」、とある。プロダクトオーナーには考えさせられることが多い一冊だ。

4. Competing Against Luck
クリステンセン教授の著作二連発だが、この本が紹介しているジョブセオリーについては、既に実務でかなり浸透しており、挙げないわけにはいかないだろう。2016年出版と比較的日が浅いにも関わらず、ペルソナやカスタマーセグメンテーションと同じレベルで、多くのプロダクトマネージャーがJob to be doneについて実務で語り合っている。MBA後に読んだ一冊だが、挙げておきたい。
The Innovator's DilemmaでDisruptive Innovationの起こる仕組みを解き明かした教授だが、なぜ斬新な機能が顧客に受け入れられるのか、という点についての説明がうまくできないと感じており、長年研究を続けた集大成が、このジョブセオリーだ。要点は、顧客は製品を買う、のではなく、何らか達成したい目的のために製品を雇用する、という考えだ。一つ例を挙げると、スーパーマーケットで朝ミルクシェイクを買っていく人たちは、それを飲むために買っているわけではない。退屈な車通勤という苦痛をたえるために、ミルクシェイクを雇用しているのだ、という具合である。これもプロダクトオーナーには必読の一冊であろう。

5. High Output Management
これもよく知られた名作だが、MBAを卒業して数年たち、おそらくチームを持つことになるとこの本の偉大さがわかると思う。部分部分、古くなってしまっている点もあるのだが、根本的な考え方、すなわち、High Leverageな仕事に注力する、すべての仕事のアウトプットは測定可能でありまた測定すべきである、といった点については疑いようもなく現在でも通じる考え方であろう。Ben Horowitzもお勧めする間違いない良書である。起業を考えている方には間違いなくお勧めできるし、大企業でのキャリアパスを考えている方も、卒業して数年以内には読むことをお勧めしたい。

是非興味のある本があれば手にとってみてほしいと思う。

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