アメリカでの夏のインターンを獲得した話
US MBAの就職活動は生徒の数だけドラマがある。一年目の大きな山場は夏のインターンシップ及びそれを獲得するまでの戦いだ。ある同級生はすぱっと夏のインターンを大企業で決めてひたすらパーティーに繰り出しているかと思えば、違う同級生は青い顔をしながら駆けずりまわって夏休みの直前にオファーをもらったりする。日本人を除くと、アメリカでインターンをする人が大多数なので、アイツはどこどこでインターンを決めたらしい、みたいな噂が延々とたつ。協力はしつつも、結局のところ同級生は一番のライバルであったりもする。
僕はこういった周りの目線がある中、選考がうまく進まない自分の状況に焦りつつあった。アメリカでの就職活動が簡単ではないことは知っていたつもりだ。ただ、自分の予想を遥かに超えた難易度だったのだ。自慢ではないが、僕は新卒時の就職活動で苦労したことがない。書類で落ちたこともなければ、面接はほぼ何も準備しなくても殆ど受かった。インターンも順調で、ありがたいことに沢山の企業から内定を頂いた。一転して、アメリカでの就職活動では、そもそも書類選考の段階で半分かそれ以上落ちる。面接では意図が伝わらなくて面接官に困った顔をされることも沢山ある。面接官に苦虫を嚙み潰したような顔をされた日の夜には、なんとかして翌日の面接に行けない理由を探したりしてみた(そんなものは当然ないのだけれども)。同級生と話すのを避けるため、学校のカフェでコーヒーを啜りながら日本からもってきた本(魯山人の食卓や食卓の情景が当時のお気に入りだった)を読む日々が続いた。
アジアからの留学生の大多数を占める中国人やインド人は、同郷の卒業生のネットワークを積極的に使ってネットワーキングをしていた。国が広い彼女たちや彼らにとって、同じ地域出身か否か、というのは大事らしい。XXで働いているYYは上海出身だ、というような詳細な情報をもとにして、次々にコーヒーチャットやらインフォーマルインタビューを設定していた。翻って、アメリカで就職している日本人MBAは本当に少ない。いや、殆どいないと言った方が正しいだろう。かといって、僕の英語力やアメリカ文化の理解力では、普通のアメリカ人のようにネットワーキングをするのは不可能だ。地元のNFLのチームの話にすらついていけない。付け焼刃で勉強はしても、五年前のドラフトの話まで調べようとは思わなかった。応募前でのネットワーキングは書類通過や面接の合否に大きな影響があるし、そもそも応募している会社を知るという意味でとても重要だ。僕は大きな壁にぶち当たっていた。今のやり方では成功しない。しかし、何を変えたらいいのかわからなかった。
そんな時、一つのJob Postingを見つけた。MBAに来る前にかなり突っ込んだ仕事をしていた業界の会社が夏のインターンを募集していた。あまり規模の大きな会社ではなかったが、業界ではそこそこ知られた存在だ。Job DescriptionとRequirementsを見ると、自分が仕事でかなり深堀りした部分がまさに問われているように見える。インターネットで最新の情報を調べ、過去の経験を棚卸し、丁寧にCover Letterを書き進めた。時間とともに、Cover Letterの中では、非の打ちどころのない僕という虚像が出来上がっていく。時計の針が深夜2時を回った。Cover Letterの中の僕がこくりと頷く。僕はCover LetterとResumeを提出すると、すっかり冷めきったコーヒーを飲みほしてベッドに横になった。自分の中で漠然と、この会社はいける、という予感があった。カフェインは疲れ切った脳みそには何の効果もないようで、ものの数分で眠りにおちた。
数日後、面接をスケジュールしたい旨のメールが届いた。アナという女性からだった。Hiring Managerのサムがとにかくすぐに会いたいと言っているので、今週のどこかでオフィスに来てほしいということだった。僕は今までの企業との反応の違いに若干戸惑ったものの、平身低頭しつついくつかのスロットを返信した。一時間後には面接の日程が決まり、オフィスに入るための手順とともに、面接に向けての心構えといったようなものが送られてきた。僕は初めてノルウェイの森を読んだ時くらい没頭して読み込んだ。当社で夏のインターンをする自分を思い描き、シャワーを浴びながら延々と自分のエレベーターピッチを練習した。
面接の当日はすぐにやってきた。とても気持ちのよく晴れた、しかし凍えるように寒い日だった。オフィスにつき、教えられた手順の通りにセキュリティーを突破する。エレベーターホールで綺麗な女性が出迎えてくれた。アナだった。もう慣れたアメリカ式の挨拶、すなわち握手とともに意味のないHow are you? I am doing great, how about you?という定型文を述べあうという儀式をこなし、彼女に先導されてオフィスに入る。サムはあなたに会うのをとても楽しみにしているわ、とアナは歩きながら言った。僕もです、と僕は答えた。アナはこちらを振り向いて笑った。勝利の女神がほほ笑んでいるように感じた。
面接部屋に入って、用意されたミネラルウォーターを飲んでいると、サムが入ってきた。LinkedInで事前にキャリアは調べていたが、想像以上に見た目が若い。学部はCaltech卒で、僕が在籍しているのと同じMBAを卒業し、現在まで当社で働いている。がっちりと握手をし、早速面接に入る。僕はシャワーの中で繰り返し練習した自分のエレベーターピッチを披露した。サムが頷きながら聞いている。つかみは成功している、そう僕は思った。サムは矢継ぎ早に質問を繰り出した。英語は相変わらず早い。でも今回はいつもと違って言っていることがわかるし、回答の内容も相手に伝わっているようだ。どこの業界にもいわゆる業界用語、みたいなものはあると思うのだが、これが使うことでスムーズな意思疎通が可能になっているようだった。面接の途中から明確にサムの笑顔が増える。明らかに僕の回答に満足しているのが伝わってくる。気づくと面接は当初の予定の一時間を遥かに超えていた。
議論がひと段落して、サムはこちらの目をまっすぐ見てこう言った。オファーを出したいが、一応決まりとして他のメンバーにもあってもらいたい、と。僕は勿論、と答えた。サムが握手を求めてきた。僕はがっちりと握り返す。初めて手ごたえのある面接だった。帰り道にさっそくアナからメールが届いた。サムの上司のアンドリューと同じチームのデイビッドとの面接を手配したいという旨だった。僕は焦る気持ちを抑え、やはり平身低頭しながらいくつかのスロットを送り返す。次の日にはアンドリューとデイビッドとの面接が手配されていた。
この二人との面接もサムの時と同じようにスムーズに進んだ。業界知識があるおかげで、これまでの職務経験、頑張ったこと、といったつかみどころのない内容ではなく、戦略や過去の事例の評価といった地に足のついた議論をすることができた。デイビッドとの面接後に、サムが部屋に入ってきた。そして他社の選考状況について聞かれた。僕は他に選考が進んでいるところなんてなかったけれど、一応いくつか他の会社も受けている、と答えた。実際にまだ書類選考途中の企業はあったのでまるっきりの嘘ではない。少し考えてから、サムはスタイリッシュなメガネを外してこう言った。おめでとう、今すぐ君にオファーを出したいので一週間以内に返事が欲しい、と。僕はThank youを数えきれないくらい繰り返し、オフィスを後にした。数時間後にはアナからオファーレターが送られてきた。週給XXXドルと給料が書いてあり、計算すると月収で100万円くらいの水準だ。僕はオファーレターを印刷し、感慨深く思いながらサインをした。そして再度平身低頭しながらサイン済みのオファーレターをPDFにしてアナに送り返した。こうして夏のインターンシップ探しは終わりを迎えた。
僕はこういった周りの目線がある中、選考がうまく進まない自分の状況に焦りつつあった。アメリカでの就職活動が簡単ではないことは知っていたつもりだ。ただ、自分の予想を遥かに超えた難易度だったのだ。自慢ではないが、僕は新卒時の就職活動で苦労したことがない。書類で落ちたこともなければ、面接はほぼ何も準備しなくても殆ど受かった。インターンも順調で、ありがたいことに沢山の企業から内定を頂いた。一転して、アメリカでの就職活動では、そもそも書類選考の段階で半分かそれ以上落ちる。面接では意図が伝わらなくて面接官に困った顔をされることも沢山ある。面接官に苦虫を嚙み潰したような顔をされた日の夜には、なんとかして翌日の面接に行けない理由を探したりしてみた(そんなものは当然ないのだけれども)。同級生と話すのを避けるため、学校のカフェでコーヒーを啜りながら日本からもってきた本(魯山人の食卓や食卓の情景が当時のお気に入りだった)を読む日々が続いた。
アジアからの留学生の大多数を占める中国人やインド人は、同郷の卒業生のネットワークを積極的に使ってネットワーキングをしていた。国が広い彼女たちや彼らにとって、同じ地域出身か否か、というのは大事らしい。XXで働いているYYは上海出身だ、というような詳細な情報をもとにして、次々にコーヒーチャットやらインフォーマルインタビューを設定していた。翻って、アメリカで就職している日本人MBAは本当に少ない。いや、殆どいないと言った方が正しいだろう。かといって、僕の英語力やアメリカ文化の理解力では、普通のアメリカ人のようにネットワーキングをするのは不可能だ。地元のNFLのチームの話にすらついていけない。付け焼刃で勉強はしても、五年前のドラフトの話まで調べようとは思わなかった。応募前でのネットワーキングは書類通過や面接の合否に大きな影響があるし、そもそも応募している会社を知るという意味でとても重要だ。僕は大きな壁にぶち当たっていた。今のやり方では成功しない。しかし、何を変えたらいいのかわからなかった。
そんな時、一つのJob Postingを見つけた。MBAに来る前にかなり突っ込んだ仕事をしていた業界の会社が夏のインターンを募集していた。あまり規模の大きな会社ではなかったが、業界ではそこそこ知られた存在だ。Job DescriptionとRequirementsを見ると、自分が仕事でかなり深堀りした部分がまさに問われているように見える。インターネットで最新の情報を調べ、過去の経験を棚卸し、丁寧にCover Letterを書き進めた。時間とともに、Cover Letterの中では、非の打ちどころのない僕という虚像が出来上がっていく。時計の針が深夜2時を回った。Cover Letterの中の僕がこくりと頷く。僕はCover LetterとResumeを提出すると、すっかり冷めきったコーヒーを飲みほしてベッドに横になった。自分の中で漠然と、この会社はいける、という予感があった。カフェインは疲れ切った脳みそには何の効果もないようで、ものの数分で眠りにおちた。
数日後、面接をスケジュールしたい旨のメールが届いた。アナという女性からだった。Hiring Managerのサムがとにかくすぐに会いたいと言っているので、今週のどこかでオフィスに来てほしいということだった。僕は今までの企業との反応の違いに若干戸惑ったものの、平身低頭しつついくつかのスロットを返信した。一時間後には面接の日程が決まり、オフィスに入るための手順とともに、面接に向けての心構えといったようなものが送られてきた。僕は初めてノルウェイの森を読んだ時くらい没頭して読み込んだ。当社で夏のインターンをする自分を思い描き、シャワーを浴びながら延々と自分のエレベーターピッチを練習した。
面接の当日はすぐにやってきた。とても気持ちのよく晴れた、しかし凍えるように寒い日だった。オフィスにつき、教えられた手順の通りにセキュリティーを突破する。エレベーターホールで綺麗な女性が出迎えてくれた。アナだった。もう慣れたアメリカ式の挨拶、すなわち握手とともに意味のないHow are you? I am doing great, how about you?という定型文を述べあうという儀式をこなし、彼女に先導されてオフィスに入る。サムはあなたに会うのをとても楽しみにしているわ、とアナは歩きながら言った。僕もです、と僕は答えた。アナはこちらを振り向いて笑った。勝利の女神がほほ笑んでいるように感じた。
面接部屋に入って、用意されたミネラルウォーターを飲んでいると、サムが入ってきた。LinkedInで事前にキャリアは調べていたが、想像以上に見た目が若い。学部はCaltech卒で、僕が在籍しているのと同じMBAを卒業し、現在まで当社で働いている。がっちりと握手をし、早速面接に入る。僕はシャワーの中で繰り返し練習した自分のエレベーターピッチを披露した。サムが頷きながら聞いている。つかみは成功している、そう僕は思った。サムは矢継ぎ早に質問を繰り出した。英語は相変わらず早い。でも今回はいつもと違って言っていることがわかるし、回答の内容も相手に伝わっているようだ。どこの業界にもいわゆる業界用語、みたいなものはあると思うのだが、これが使うことでスムーズな意思疎通が可能になっているようだった。面接の途中から明確にサムの笑顔が増える。明らかに僕の回答に満足しているのが伝わってくる。気づくと面接は当初の予定の一時間を遥かに超えていた。
議論がひと段落して、サムはこちらの目をまっすぐ見てこう言った。オファーを出したいが、一応決まりとして他のメンバーにもあってもらいたい、と。僕は勿論、と答えた。サムが握手を求めてきた。僕はがっちりと握り返す。初めて手ごたえのある面接だった。帰り道にさっそくアナからメールが届いた。サムの上司のアンドリューと同じチームのデイビッドとの面接を手配したいという旨だった。僕は焦る気持ちを抑え、やはり平身低頭しながらいくつかのスロットを送り返す。次の日にはアンドリューとデイビッドとの面接が手配されていた。
この二人との面接もサムの時と同じようにスムーズに進んだ。業界知識があるおかげで、これまでの職務経験、頑張ったこと、といったつかみどころのない内容ではなく、戦略や過去の事例の評価といった地に足のついた議論をすることができた。デイビッドとの面接後に、サムが部屋に入ってきた。そして他社の選考状況について聞かれた。僕は他に選考が進んでいるところなんてなかったけれど、一応いくつか他の会社も受けている、と答えた。実際にまだ書類選考途中の企業はあったのでまるっきりの嘘ではない。少し考えてから、サムはスタイリッシュなメガネを外してこう言った。おめでとう、今すぐ君にオファーを出したいので一週間以内に返事が欲しい、と。僕はThank youを数えきれないくらい繰り返し、オフィスを後にした。数時間後にはアナからオファーレターが送られてきた。週給XXXドルと給料が書いてあり、計算すると月収で100万円くらいの水準だ。僕はオファーレターを印刷し、感慨深く思いながらサインをした。そして再度平身低頭しながらサイン済みのオファーレターをPDFにしてアナに送り返した。こうして夏のインターンシップ探しは終わりを迎えた。
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