MBA後も勉強は終わらない(むしろ本番である)

MBAを卒業してとても長い時間が経つ。MBA後に産まれた自分の子供を見ていると、あの二年間が本当は夢だったのではないかと思うこともある。自由に時間を使え、好きなことに好きなだけ首を突っ込んで、世界中からきた同級生と議論を戦わせる。いい大人になって、制約条件のない自由な二年間というのは、非常に贅沢な時間だった、と僕は思う。

一方で、MBAを取得する、というのは本当にスタートに過ぎない。僕の経験だと、残念ながらMBAで学んだ”知識”そのものをそのまま適用できる機会というのは余りない。勿論、場面場面で役立つことはある。このマーケティングの施策にはこういった視点が抜けている、ファイナンスから出てきた数字のこの前提がおかしい、自分の製品のストラテジーを学んだフレームワークで考え直してみる ー こういった”疑問をもつきっかけ”はMBAで得た授業で手繰り寄せることができる。しかしながら、MBAを卒業したばかりの若者は、そこから目の前にある問題を自分の力で解決していかねばならない。これはMBAで学ぶ経営判断とは全く別の次元の、極めて実務的な能力が必要になる。

アメリカの採用は、MBA採用も含めて、かなりFunctional Skillを重視する傾向があると僕は思っている。Functional Skill、というのは、そのポジションで活躍するために必要になる具体的なスキルのことで、例えば、プロダクトマネージャーであれば、5年以上に亘るプロダクトマネジメントかソフトウェアエンジニアリングの経験、や、SQLやTableauなどの分析ツールが使えること、や、Machine Learningの知識及び実務での経験、といったものがこれにあたる。採用側としても、MBA生のポテンシャル、及び、将来的に会社でマネジメントポジションとして活躍してくれる期待を持ちつつも、実際問題として入社してからしばらく全く稼働しないような人間を取るわけにいかず、従って、どうしてもこういったFunctional Skillが持っていることを前提に、採用を進めていくことになる。

このFunctional Skill重視の採用が何を意味するのか、と言えば終わりなき勉強の旅である。特にテクノロジー業界に勤めていると常に何か新しいことが起きているので、その度に結構な時間を使って勉強しないといけない。クラウドの技術を考えてみても、10年前とは雲泥の差である。こういったものに置いて行かれないよう、Functional Skillが常にポジションの要求と合致するよう、みな努力をし続けている。実際に、僕も今まで何回かブログを書いてみようと思ったことがあるのだが、その度に勉強せねばならないことが多すぎて、なかなかまとまった時間がとれなかった。今回、ブログを書き始めることができたのは、幸か不幸か、COVID-19の影響で通勤時間がゼロになったことが大きいと思う。

ということで、MBA卒業シーズンでもあるため(少し遅いか)、僕がMBA卒業後になるべく意識している勉強法を紹介してみたいと思う。

1.人と会う(なるべく社外の人)

MBAを卒業して会社に入ると、どうしても社内のネットワークで全てが完結してしまうことが多い。実際に、僕も入社してしばらくは英語の問題やVISAの対応で殆ど時間がなく、社外の人と会う機会が殆ど作れなかった。これはとても危険だと思う。特に会社の規模が大きくなればなるほどProprietaryなシステムが多くなったり、"自社ルール"のようなものが発生しがちである。業界全体のトレンドや他社が何に注力しているのか、という点を探るのはとても大切で、そのためには社外の人と積極的に交流すべきだ。

といってもとっかかりがないと中々難しいので、僕が個人的にお勧めするのは以下の方法である。これはMBA 2年生くらいの時に仕込んでおくととてもスムーズだと思う(入社してからは時間がないので)。
  • 大きい都市の近傍に卒業後住むのであれば、学校のAlumniネットワークがあるはずなので、そこに登録し、卒業後最初のWelcomeイベントなどには必ず参加する
  • MBA在籍中に就職活動の相談にのってもらった人などをメンターとして考え、特に同じ地域に住む人には、あまり用件がなくても定期的に会うようにする(月に一回くらい)
  • 逆に、MBAを考えている人たちから相談され、そこからネットワークが広がることもあるため、学校のイベントに積極的に参加したり、LinkedInなどでランダムに来たメッセージにも丁寧に対応する
  • 興味のあるイベントには積極的に参加する。例え無駄玉になっても、家でビールをだらだら飲んでいるよりはよいはず
  • 住む先のエリアに日本人コミュニティがありそうか確認する。もしある場合、当地のMBAに在籍する日本人はそのコミュニティとある程度のつながりがある確率が高いので、紹介をお願いする。(MBAを終えてしまうと、駐在の方などが多い日本人コミュニティとは意外に接点がなく、意識をしないと広がらないというのが個人的な経験)

2.とにかく本を買って読む。そして論文も読む

社会人になってPaycheckをもらって、もう貴方を縛るものはなにもない。学術書でもなければ、所詮は$20程度である。MBA卒の貴方には、痛くもかゆくもない出費であるはずだ。以前お勧めの本に関する記事を書いたが、とにかく迷ったら買うべきだ。買って積んでおいてもいいと僕は思う。休暇や、時に奇跡のように訪れる業務が暇な期間を利用してバックログを消化することはいくらだってできる。また、人は忘れていく生き物である。それが強みでもあり、弱みでもある。僕は比較的忘れっぽいタイプなので、思い立ったら買うことで、読むべき本が忘れ去られてしまうことを避けている。

また、業務の本だけを見るのではなく、小説や伝記、などといったものにも是非挑戦してもらいたいと思う。最近だとJohn Bolton氏のThe Room Where It Happenedが発売されて話題になっているが、こういう本を読んでおくと、1の社外の人と会うときのネタにもなるし、一石二鳥である。

最後になるが学術論文も関連する範囲であれば定期的にチェックした方がよい。arXivなどで興味のある分野のアラートはきちんと設定して、Abstractを読み、そして面白そうなものを週に一本か二本、読むことを習慣づけるとよい。特にプロダクトマネージャーを含めて、テクノロジーで勝負する場合は、こういったソースを知っているか否かで仕事に結構な差が出てくると思う。

3.ニュースやポッドキャストをチェックする

これが個人的には一番大変で中々習慣化されないものの一つなのだが、TechCrunchをちゃんと読んでついて行ったり、通勤中はポッドキャストを聞くなどして、情報収集に励むのがよい。特にポッドキャストは英語の勉強にもなるのでお勧めである(1.25 ~ 1.5倍速くらいで聞くのがよいかなと思う)。僕が個人的にお勧めするポッドキャストはこちら。
  • Stuff You Should Know (毎回興味深いトピックを掘り下げてくれる)
  • a16z (みなさんご存知、Andreessen HorowitzのPodcast)
  • Planet Money (経済に関する面白いトピックを扱っている)
  • Slow Burn (過去にあった政治問題を掘り下げる)
  • Hidden Brain (Science系のポッドキャスト)
毎日全部聞こうとするとしんどいし、おそらく続かないので、気に入ったものを気軽に聞いてみるのがよいと思う。

4.社内の勉強会には積極的に参加する

これは所属する会社に拠るかもしれないが、おそらくテクノロジー系の会社であれば、社内での勉強会が多数あるはずである。こういった勉強会には是非積極的に参加すべきだ。多くの場合、第一線で活躍するリードエンジニアの話が生で聞け、とても勉強になることが多いし、自分が最近の技術のどこがわかっていないのかあぶり出すこともできる。

勉強会後にはネットワーキングイベントのようなものが付属することも(少なくとも当社では)多いため、色々な人と知り合いになる機会もある。お勧めである。


僕が意識しているのは以上の4つになる。時間の使い方としては、2の本を買って読む・論文を読む、に圧倒的に時間を使っている。逆に言えば、1、3、4はあまり時間を使わずとも効果的に勉強が進むのでお勧めである。(特に1は絶対にやった方がいいと思う)

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